デトロイト総領事の眼差し
令和8年3月10日
デトロイト総領事の眼差し Vol.19
空を飛ぶ夢を見た、オハイオ編 ― ライト・パターソン空軍基地を統括する女性中将
空を飛ぶ夢を見た、オハイオ編 ― ライト・パターソン空軍基地を統括する女性中将
令和8年 (2026年) 3月10日
在デトロイト日本国総領事
昨年3月、オハイオ州ドゥワイン州知事を表敬した際、知事室の壁に絵が掛かっているのに気づいた。「ライト兄弟、私の故郷デイトンの英雄です」ドゥワイン知事は言った。彼らの名前を冠したライト・パターソン空軍基地を訪問するよう勧められたがアポが取れないまま1年が過ぎた。ひょんな事から(原田慶太楼指揮者のコンサートに来ていたスポルディング大佐のお陰だ、眼差しVol 17)本年3月5日、ついに基地を訪問することができた。在デトロイト日本国総領事
岸守 一
雨が降りしきる中、緊迫するイラン情勢の影響のせいかセキュリティが厳しい基地内部の司令官室に入ると、迷彩服を纏った私と同年代くらいの小柄な女性がいた。
「貴官のことはスポルディング大佐から聞いています。ようこそお越しくださいました」
ドナ・シップトン中将は、静かな声で私を歓迎してくれた。
ライト・パターソン空軍基地は第88航空師団の他、全世界に展開する米空軍の軍事装備品を管理する兵站管理センター(AFLCMC: Air Force Life Cycle Management Center)本部が設置されている。その最高責任者がシップトン中将で、部下が2万8000人いる。彼らは、しかし基本的に空を飛ばない。航空機を始めとするあらゆる軍事装備品の調達や整備等を行う部隊だ。ここには防衛省から上潟口二佐と松尾事務官が出向し、防衛装備品の調達等を行っている(他に菅沼三佐がC130開発の人的交流で出航中)。日本は、サウジアラビア、イスラエルに次いで第3位の取引相手らしい。
シップトン中将とは、日本に6機の輸送機を納入した経験から日米同盟の重要性、イラン情勢など幅広く意見交換したが、その印象は『誠実』そのもの。会う前は、トランプ政権の女性閣僚達の猛禽類のような激しさを想像していたが、寧ろ静謐なイメージだった。理想の上司ナンバーワンに選ばれそうなシップトン中将と今後の協力強化について合意できた。
その後はゲラハティ准将(コードネームはジャイブ)のチームからブリーフを受けたが中身は省略する。ジャイブはテストパイロットで、これまでの21年間で19回転勤している。「昨年初めて日本に出張したが、日本は美しい国だ」笑いながらジャイブはそう言った。
個人的な話で恐縮だが、私は若い頃、ケニアの飛行機事故で親友のS君を失っている。
そのせいか飛行機に乗るのが今でも少し怖い。「一度飛行機を売ったら30年間はきちんとメンテナンスする」とシップトン中将は言った。空を飛ばないAFLCMCのスタッフ達が、日本の航空自衛隊に戦闘機や輸送機を供給し維持管理を行っている。それを聞いてすこし安心した(私が自衛隊機に乗ることはないとしてもだ)。
パイロットと聞けば華々しいイメージだが、彼らを支えるために米空軍には2万8千人の空を飛ばないスタッフがいる。そういうところが米軍の本当の強さなのかもしれないなと、考えながら雨に煙るライト・パターソン空軍基地を後にした。