デトロイト総領事の眼差し

令和7年2月3日
デトロイト総領事の眼差し Vol.2
May Mobility:"前頭葉“ で考える無人運転車

 
 
令和7年 (2025年) 2月3日
在デトロイト日本国総領事
岸守 一
 
「私たちは人間を、特に通行人を信じていないのです。」
 
後部座席のエドが、そう話しかけてくる。2025年1月16日、私達はTOYOTAシエナを母体とした無人運転車でミシガン州アン・ナーバー町中を走っていた。ずっと順調だったが、信号もない場所で静かに停止した。道端で工事現場の人たちが用具を車から降ろしていた。目つきの悪いおじさんが不審そうにシエナを覗き込む。
彼らが離れていくまで、May Mobilityの無人運転車はそこに立ち止まったままだった。
 
私の前任地サンフランシスコでは、Uberと並んでWaymoの無人運転車が急速にシェアを広げている。二年半前の試験運転の時に初めて運転座席に誰も載っていない車両が町中を走っているのを見て驚愕した。それが今では当たり前のように商業運転している。チップがいらない分だけUberより安いし、無駄に話し掛けてくる運転手がいない分だけ気楽だ。
 
無人運転車の環境探知方法には二種類あるらしい。テスラやWaveは基本カメラのみ。WaymoやMay Mobilityは更にセンサーを足している。前にクルーズに乗った時(今ではHondaもGMも撤退したが)、交差点で先に来た車両のお婆さんが運転に不安なのか後に来た我々を先に行かせようと車の中で手を振っていた。が、運転手がいない車には伝わらず,私達はいつまでも動かなかった。やがて痺れを切らしたお婆さん運転手は、やれやれと肩をすくめながらノロノロと交差点を運転していった。
センサーで蓄積された情報が解析されれば、こうしたボディランゲージが無人運転車にも理解されるようになるのだろう。
 
「基本はその通りですが、膨大な量のデータ蓄積が必要です。私達May Mobilityはコスト削減のために不必要なデータ蓄積は行っていません。その代わり、車両に想像力を植え付けるよう設計しています。先ほどの工事現場の人が用具をおろすときに、その用具が落ちてきたらどうしよう、人が飛び出したら止まれるのか、想像しながら走っています。」
 
エドは、prefrontal cortex“前頭葉“という言葉を何度も使った。脳の中で高次情報の統合を行う領域だ。Waymoは人が常識的な行動をとる前提でプログラムを組んでいるらしい。道端で工事をしていても一定の間隔があれば止まらずにそのまま走っただろう。その方が急いでいる人には有難いかもしれない。しかし安全運転が第一だ。通行人の事情まで想像しながら走る無人運転車は、TOYOTAがスポンサーなだけに日本的価値の表現とも言える。
ミシガン発のスタートアップ、May Mobilityの今後の活躍に期待し、応援したい。
 
 
 
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