デトロイト総領事の眼差し

令和7年6月17日
デトロイト総領事の眼差し Vol.6
ミシガンと言えば自動車 - なのに、マキノー島では馬車がタクシー


 
令和7年 (2025年) 6月17日
在デトロイト日本国総領事
岸守 一
 
1886年にカール・ベンツが発明した自動車は、20世紀初頭のT型フォード大量生産により庶民の足となった。1908年から1927年の20年間で1500万台を生産したヘンリー・フォードは1914年、労働者の最低賃金を2ドルから5ドルに引き上げ、購買力の高まった労働者が自動車の顧客になった。大恐慌を機にシボレー(現GM)が台頭し、クライスラーを加え「ビッグ3」を形成し、デトロイト・ミシガンは文字通り世界の自動車王国になった。
 
その後1970-80年代の日本車の大量輸入、デトロイト市経済破綻(2013年)、電気自動車の流通、クライスラーからステランテス社(本部オランダ)の転換などがあってもミシガン州GDPの2割以上を占める自動車産業の優位は揺るがない。そんなミシガンの政治経済を指導する各界重鎮が集まるマキノー政策会議(5月27-30日)に参加した。デトロイトから北に車で6時間及びフェリーで20分のマキノー島は、ヒューロン湖に浮かぶ小島である。
会場のグランドホテルで登録手続きを済ませると5枚のタクシー券が渡された。早速1枚を使ってみると、二頭立ての馬車が現れた。マキノー島では自動車の乗り入れが禁止され、島内の移動は馬車か自転車のみ。今はやりの脱炭素に迎合しているわけではないが、究極のエコでもある。
 
今回で第44回を数えるマキノー政策会議には、ピーターズ及びスロッキン連邦上院議員、ディンゲルら連邦下院議員、ホイットマー知事、ダガン・デトロイト市長、州議会議員達が勢揃いし、正にミシガン版「ダボス会議」の様相であった。主催者はデトロイト商工会議所バルーア会頭で、スポンサーはダイヤモンド、ルビー、プラチナ、ゴールド、シルバー及びブロンズの6階級に分かれ、計91社が参加。期間中は食事や珈琲が随時サーブされる上に豪華なレセプションやアイスクリーム、ポップコーン、ブラディマリー、スムージーなど、スポンサーによるプロモーションが行われていた。公式プログラムの合間に非公式行事や商談が同時進行し、参加者は1500名を超えた(日本人は著者を含め3名しかいなかった)。NFLデトロイト・ライオンズのジャレッド・ガフQBや女子バスケ選手達も来ていた。
ミシガンにおける人脈構築を図る場として、これ以上最適なところはないだろう。
 
デトロイト市復活の立役者であるダガン市長とダン・ギルバートの対談、世界情勢を簡潔に分析するイアン・ブレマー氏も面白かったが、最も印象に残ったのはビル・フォードCEOと娘のアレクサンドラがイノベーションについて語ったことである。自動車王国を築いたヘンリー・フォードのひ孫と玄孫が、自動車のない島で、自動車を超えた未来を力説した。デトロイトがシリコンバレーを超える可能性を秘めたミシガン・セントラルとニューラボについては、また別の機会に報告しようと思う。

 
 
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