デトロイト総領事の眼差し
令和7年12月5日
デトロイト総領事の眼差し Vol.11
デトロイトなのにイノベーション? ―ビル・フォード4世のニューラボにおける挑戦
デトロイトなのにイノベーション? ―ビル・フォード4世のニューラボにおける挑戦
令和7年 (2025年) 12月5日
在デトロイト日本国総領事
発端は、親友である林揚哲JETROサンフランシスコ所長(当時)の今年2月の来訪だった。在デトロイト日本国総領事
岸守 一
吉田次長と中川シカゴ所長と共にデトロイトまで出張して、ニューラボでスタートアップの会議を開催し、私も同席した。米国自動車3大メーカーの一つ、フォード社の現社長は、廃墟だったデトロイト中央駅をミシガンセントラルという商業モールに転換し、郵便局をスタートアップ起業家育成のためのニューラボに改造した。林所長たちJETROは早くからデトロイトでのスタートアップやベンチャーキャピタルなどの動きに目を付けていたのだ。(林所長のデトロイト出張は公邸で一緒に酒を飲みたいからなのかなと誤解していたが、この場を借りてお詫びします。いや、もちろん酒は飲んだが。)
意外だった。デトロイトなのにイノベーション?
私はデトロイトに来る前はサンフランシスコで3年近く勤務したので、シリコンバレーのスタートアップの動きにも関与した。在サンフランシスコの各国総領事館の仕事の大半がスタートアップ支援だったと言っても過言ではない。日本は遅れていたが2年前に経産省及びJETROがパロアルトにJapan Innovation Campusを設置し日本の起業家育成に本腰を入れ始めた。だからデトロイトでイノベーションと聞いても最初はピンとこなかった。
しかし本年5月のマキノー政策会議(総領事の眼差しVol.6を参照)でビル・フォード4世が娘のアレクサンドラと共に登壇し、自動車ではなくスタートアップについて語ったとき、ストンと胸に落ちた。同じく2年前に開設されたニューラボでは、ノルウェーなど海外の起業家を含む131のスタートアップが活動していたが、日本勢はゼロ。そこからJETROの中川シカゴ所長と連携して、日本のスタートアップ誘致を本格化させた。
既にJETROの後押しで北九州のスタートアップであるTriOrb社がニューラボへの進出を検討していた。石田代表達を公邸に招いて懇談し、何故シリコンバレーではなくデトロイトなのかと聞いた。その答えは、「シリコンバレーはソフトウェアは盛んだがものづくりではない。TriOrb社が目指す「量産式ベルトコンベヤーの革新的改善」は、ものづくりのエコシステムが既に存在するデトロイトでこそ挑戦する意味がある」とのことだった。
SONYも本田技研も東芝もPanasonicも日本は職人気質を活かして、元来ものづくり大国だった。イノベーションに根ざしたものづくり。それこそが日本とミシガン州の新しい共通言語になるのではないか。そう閃いた瞬間だった(次号Vol.12に続く)。